高知家庭裁判所 平成10年(少)131号 決定 1998年2月10日
少年 N・J(昭和54.10.12生)
主文
少年を中等少年院に送致する。
理由
(罪となるべき事実及び適用すべき法令)
当裁判所の認定した罪となるべき事実及び適用すべき法令は、本件法律記録中の司法警察員作成の、<1>平成10年1月7日付け及び<2>同月29日付け各少年事件送致書にそれぞれ記載のとおりであるから、これらを引用する。
(処遇の理由)
1 非行に至る経緯、非行の態様等
(1) 非行に至る経緯
少年は、平成7年3月に高校を受験したが、希望校に合格できず、結局、父親の強い勧めで、中学卒業後、県立高校(定時制)と調理師学校に入学した。しかし、少年は、定時制の雰囲気になじめずに授業を欠席がちになり、同年夏ころには、成績不良と単位不足を理由に高校を体学した。少年は、休学を理由に父親から殴られた上、家を出て行けと言われ、家出をして友人宅に身を寄せた。その間、少年は仕事を探していたが、当時は、親の承諾もなく、18歳未満ということもあって、なかなか仕事が見つからなかった。少年は、平成7年12月ころ、調理師学校を退学したが、両親の求めに応じて自宅に戻り、平成8年4月ころから再び県立高校に通い始めた。しかし、同年夏ころには、単位不足から高校を退学することになった。また、少年は、同年5月ころ、友人の紹介で土木会社に就職したが、父母から「汚い。臭い。」「馬鹿がする仕事だからやめなさい。」とやっと見付けた仕事を馬鹿にされ、結局、同年8月ころに退職し、再び家を出て、友人宅に身を寄せた。そして、友人の父親の会社でアルバイトをしたり、パチンコをしたりして生活費を稼いでいたが、生活費に困窮して、平成8年12月ころから、車上狙いを始めた。
少年は、平成9年1月ころ、自宅に戻って、同年3月に○○高校を受験したが、合格せず、両親から仕事を探すように叱責されて、再び家出をし、その際、父親名義の通帳を持ち出して、その中から約50万円を費消した。少年は、同年10月ころには時折自宅に戻るようになっていたが、深夜徘徊と車上狙いは続いていた。
(2) 非行の態様
本件各非行は、連続車上狙いの事案で、<1>事件が2件、<2>事件が14件ある。
少年は、家出をしていた平成8年12月ころ、生活費に困窮し、かつ、好奇心も手伝って、車上狙いを始めた。当初、無施錠の自動車を狙っていたが、それも限りがあることから、もっと効率よく窃盗ができないかと考えていたところ、オープンカーなどの幌付き自動車の幌が簡単に切り裂けることを知り、幌付き自動車の幌をカッターナイフで切り裂くなどして車中の金品を盗むようになった。やがて、幌付き自動車も余り見当たらなくなったので、平成9年10月末ころから、軽四輪自動車の後部ドアの鍵をドライバーを使って壊し、車内の金品を盗むようになった。これらの方法によって盗んだ金品のうち、現金はそのまま費消し、音楽用CDは少年自ら又は友人に依頼して中古CDの買取店に売却し、換金していた。
少年の車上狙いの件数は多く、被害額も多額で、<1>事件、<2>事件のほかに、捜査機関が観護措置期間中に送致できず立件をあきらめた余罪が33件ある。少年の供述によれば、全部で70件くらいの車上狙いを敢行しているという。また、立件はされていないものの、犯行に伴って破損した幌や鍵の修理費も相当多額になることが見込まれる。
少年は、当初は必要に迫られて、車上狙いを始めたが、非行そのものに慣れ、非行の成功体験を重ねて、やがて、少年が気が向いたときに生活費の要否などとは無関係に連続して車上狙いを行うようになった。
2 少年の資質
少年の資質上の問題点は、鑑別結果通知書及び少年調査票等に概ね記載のとおりであるが、特に以下の点を指摘しておきたい。
少年は、平均以上の知的能力とー般的な常識を持っており、就労意欲もある。しかし、少年の自己イメージはかなり低く、少年自身が一般社会から排除されているという意識が強いゆえに、自分の行動と社会常識を照らし合わせて行動することが難しい。
本件各非行の態様からは、窃盗に対する抵抗感の喪失、窃盗の習慣化、手口の悪質化などが認められ、非行性の深化は著しい。少年には、金銭的な欲求を満たすことで、欲求不満や不全感を補償しようとする心理的規制が働いており、少年が自宅に戻った平成9年10月以降も車上狙いが続いていたことも考慮すれば、少年の本件各非行の原因は、生活費の要否とは関係がなく、少年自身の欲求不満や不全感にあると認められる。
少年は、本件各非行について、被害弁償の必要性を強く感じてはいるものの、内省するまでには至っていない。家庭での不遇感が強いだけに自己本位的な考え方が根深く、自己を客観視することは難しい。他者に対する不満を蓄積しやすい性格は、鑑別所においても変わらなかった。
現在、少年は、ようやく両親に対する心情を吐露できるようになった段階であり、未だ両親や社会に対する不満とうっ積を相当ため込んでいる状況にある。窃盗の手口がだんだんと悪質になり、とりわけ無差別的かつ破壊的な態様へ移行している点は、両親に対する不満のかなりの部分が社会全体に対する不満へ移行したためと評価できる。
度重なる家出によって固定化された不健全な生活態度や金銭感覚、両親や社会全体に対する不満感情の蓄積などを考慮すれば、少年が反社会的な行動傾向を更に強め、窃盗のみならず、より重大な非行を行う恐れは否定できない。
3 保護環境等
(1) 少年の家族関係
少年は、5人兄弟の3番目である。一番末の次女は、重度の障害を持ち、両親の関心は同女に集中している。少年の両親は、次女以外の子供らに対し、親からの早期独立を強く求め、厳しく叱りつけながら育てる一方、少年に対して十分な関心を向けず、その愛情欲求に応えることも少なかった。少年の両親は、長男や長女を独立させ、重度の障害を持つ次女と未だ父母の指導の枠内にある中学生の三男だけを手元に置き、その結果、少年のみが両親から独立をせかされて放り出された形になっている。少年は、何らの手助けもしてくれずに叱責だけを繰り返す両親にますます不満を募らせている。
少年の家庭は、両親健在で、経済的にも比較的安定しているなど、外形的には問題のない家庭であるが、情緒的なつながりを欠いた親子関係が少年の健全な社会性や情緒などの精神面の発達を阻害していたと認められる。
現在、両親特に母親は、次女の世話や住宅ローンに加えて、本件各犯行の被害者からの問い合わせに対する対応で頭が一杯で、少年の内面への配慮を求めることが困難な状態にある。
少年の両親に対する拒否感情は現在でも非常に強い。少年は、両親を親と認めておらず、審判廷の座席についても、出頭した親が少年の視野に入らないような席の配置を求めてきた。親子関係の溝はかなり深刻で、その改善はかなり困難である。
(2) 少年の交友関係
本件各非行は、少年の不良交友関係に由来するものとは認められない。
しかし、少年は、観護措置後半の鑑別所内の集団討議において、悪い年長の友人に勧められて偽造プリペイドカードや覚せい剤の運び屋をやっていたという話をした。鑑別所職員から話を聞いた家庭裁判所調査官が改めて面接して確認すると、同様の話をした上で、それまで話さなかった理由として、少年院に行かされると自ら悪い友人との縁を切ったことにならないからだと述べ、涙ながらに両親に対する怒りを同調査官に述べた。審判廷において、再度確認すると、少年は、○○高校で一緒だった女の子の彼氏の知り合いに頼まれて、指示された場所まで覚せい剤や偽造プリペイドカードを持って行き、そこで待っている人に品物を渡して、代わりに、代金を受け取り、謝礼として、3千円くらいの現金をもらっていた旨供述した。
この少年の話は、観護措置の後半に出てきたもので、少年の自白しかなく、直ちに覚せい剤取締法違反(営利目的所持)や偽造有価証券交付罪等を認定できるものではないが、少年が中学3年生のころから本件各犯行のころまでパチンコ店に入り浸っていたこと、犯行当時は定職についていなかったこと、少年が供述するに至った経緯及び少年の供述内容の具体性などを考慮すると、少年の偽造プリペイドカードや覚せい剤に関する供述の信用性は高く、少なくとも犯罪性の強い年長者との交友関係は認めることができる。
4 処遇の選択
(1) 施設収容を選択した理由
以上のように、本件各非行に至る経緯、非行の態様、少年の資質及び保護環境上の問題点などを考慮すれば、少年を保護処分に付する必要性があり、かつ、少年を保護観察処分や在宅試験観察にすることが困難なことは明らかである。
当裁判所は、当初、少年の処分歴などを考慮し、補導委託を検討していた。しかし、その後、併合事件の調査によって本件各非行の経緯・態様が明らかになり、また、鑑別技官とのカンファレンスを通じて、少年の資質上の問題の大きさと本件各非行との結びつきの強さを認識し、補導委託では、本件各非行と結び付いた少年の問題点を改善することができず、かえって、少年の資質面への働きかけの機会を失してしまうと考え、少年の年齢の高さなども考慮して、この際、相当期間、強力な指導力や規制を行使できる少年院に少年を収容して、少年本人の欲求や感情統制力を強化し、健全な社会的自立を図ることが適当であると判断した。
(2) 短期処遇を勧告しない理由
少年には教護院、少年院の施設収容歴はない。しかし、少年の非行が常習化していること、少年の資質上の問題点の大きさ、保護環境、少年の両親に対する拒否感情の激しさなどを考慮すれば、仮退院後の保護観察所との連携を考慮しても、短期処遇において、少年の資質面の改善という目的を達成することは困難であり、少年の指導の徹底を図るためには長期の指導期間が必要である。
よって、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項を適用して少年を中等少年院に送致することとし、主文のとおり決定する。
(裁判官 國井恒志)
〔参考1〕 平成10年1月7日付け少年事件送致書記載の犯罪事実
犯罪事実
被疑者は
第1 平成9年12月16日午前2時頃、高知市○○町××番地×○○1階駐車場において、同所に駐車中の軽四輪乗用自動車(××号)の車両内から、A所有にかかる
CD 20枚位 時価 6万円相当
CDチェンジャー内蔵部品 1個 時価3000円相当
カゴ 1個 時価 500円相当
を窃取し
第2 平成9年12月16日午前2時30分頃、高知市○○××番地××○○方南側月決駐車場において、同所に駐車中の普通乗用自動車(××号)の車両内から、B所有にかかる
CD 10枚位 時価 3万円相当
を窃取し
たものである。
〔参考2〕 平成10年1月29日付け少年事件送致書記載の犯罪事実
犯罪事実
被疑者は、別途窃盗被疑事件一覧表記載のとおり、平成9年10月3日午前3時頃から同年12月23日午前3時頃までの間前後14回にわたり、高知市○○××番地×○○1階駐車場他13箇所において、同所に駐車中の普通乗用自動車(××号)他13台の車両内から、C他13名所有にかかる
現金合計5300円位
CD等物品合計156点(時価合計21万200円相当)
を窃取したものである。
窃盗被疑事件一覧表 被穎者 N・J
番号
一 犯罪日時
二 犯罪場所
被害者
犯行の手段方法
被害金品
品名
数量
時価(相当)
処分状况等
1
平成九年一〇月三日午前三時頃
高知市○○町
××番地×
○○一階駐車場
高知市○○町××番地×○○××号室
ウエイトレス
C
二五歳
被疑者は、上記日時場所において駐車中の普通乗用自動車(××号)の幌を切り裂いて、車両内から上記被害者所有にかかる下記物品を窃取したものである。
CD
七枚位
一万五〇〇円
被疑者が平成九年一〇月七日に、高知市○○町××番地○○一階所在の○○店にCD5枚を売却処分しており、未発見。
CD二枚位については、処分先等不明につき未発見。
2
平成九年一〇月二二日 午前二時頃
高知市○○町 ×丁目××号○○一階駐車場
高知市○○町 ×丁目×番 ××号 ○○××号
会社員 D 三三歳
被疑者は、上記日時場所において駐車中の普通乗用自動車(××号)の幌を切り裂いて、車両内から上記被害者所有にかかる下記物品を窃取したものである。
CD
三枚位
四〇〇〇円
被疑者が平成九年一〇月二二日に高知市○○町××番地○○一階所在の○○店へ他で窃取したCDとあわせて一部を売却処分しており未発見。
3
平成九年 一〇月二二日 午前三時頃
高知市○○町 ×丁目×番×号 月極駐車場
高知市○○町 ×丁目地××番 ○○××号室
パチンコ店店員
E
一九歳
被疑者は、上記日時場所において駐車中の普通乗用自動車(××号)の幌を切り裂いて、車両内から上記被害者所有にかかる下記物品を窃取したものである。
CD
五枚
一万円
被疑者が後日古物店へ売却処分しており未発見。
4
平成九年 一〇月二二日 午前三時 三〇分頃
高知市○○町 ××番地× ○○方南側 月極駐車場
高知市○○町 ××番地×
会社員
F
二六歳
被疑者は、上記日時場所において駐車中の普通乗用自動車(××号)の幌を切り裂いて、車両内から上記被害者所有にかかる下記物品を窃取したものである。
CD
七枚位
一万四〇〇〇円
被疑者が平成九年一〇月二二日に高知市○○町××番地○○一階所在の○○店へ他で窃取したCDとあわせて一部を売却処分しており未発見。
5
平成九年 一〇月二八日 午前三時頃
高知市○○ ××番地×有限会社○○ 一階駐車場
高知市○○ ××番地×
会社員
G
二二歳
被疑者は、上記日時場所において駐車中の普通乗用自動車(××号)の幌を切り裂いて、車両内から上記被害者所有にかかる下記物品を窃取したものである。
CD
七枚
二一〇〇円
被疑者が平成九年一〇月二八日に、高知市○○町××番××号所在の○○店へ、他で窃取したCDとあわせて売却処分しており未発見。
6
平成九年 一〇月二八日 午前三時 五分頃
高知市○○ ××番地×有限会社○○ 敷地内駐車場
高知市○○ ××番地××
会社役員
H
四七歳
被疑者は、上記日時場所において駐車中の普通乗用自動車(××号)の無締まりの助手席ドアを開けて、車両内から上記被害者所有にかかる下記現金を窃取したものである。
現金
一〇〇〇円位
小遣いとして費消
7
平成九年 一〇月三〇日 午前三時頃
高知市○○町 ××番×号 ○○○駐車場
高知市○○町 ××番地×号 ○○○ ××号室
薬剤師
I
二三歳
被疑者は、上記日時場所において駐車中の軽四輪乗用自動車(××号)の後部ドア施錠を破壊してドアを開け、車両内から上記被害者所有にかかる下記金品を窃取したものである。
現金
四〇〇〇円位
小遣いとして費消。
被疑者が投棄しており、未発見。
被疑者が平成九年一〇月三〇日に高知市○町×丁目×番××号○○一階所在の○○店へ一部を売却処分しており未発見。
CD
チェンジャーカートリッジ
二個
六〇〇〇円
CD
一四枚
二万一〇〇〇円
8
平成九年 一〇月三一日 午前二時 三〇分頃
高知市○○町 ××番地× ○○一階駐車場
高知市○○町 ××番地× ○○××号室
会社員
J
二四歳
被疑者は、上記日時場所において駐車中の普通乗用自動車(××号)の後部ドア施錠を破壊してドアを開け、車両内から上記被害者所有にかかる下記金品を窃取したものである。
CDケース
一個
三〇〇円
被疑者が投棄しており、未発見。
被疑者が友人のKに窃取したCD一三枚の売却処分を依頼し、右Kが盗品の情を知らず平成九年一一月一日に高知市○○町××番××号所在の○○店へ売却処分しており未発見。
CD
一四枚位
二万円
9
平成九年 一一月二七日 午前一時頃
高知市○○町 ××番地× ○○北側駐車場
高知市○○町 ××番地× ○○××号室
会社員
L
四七歳
被疑者は、上記日時場所において駐車中の普通乗用自動車(××号)の後部ドア施錠を破壊してドアを開け、車両内から、上記被害者所有にかかる下記物品を窃取したものである。
運転免許証
一通
被疑者が投棄しており未発見。
カードケース
一個
一〇〇〇円
テレホン カード
三枚
一一〇〇円
給油カード
一枚
10
平成九年 一一月二七日 午前三時頃
高知市○○町 ××番地× ○○方 南側駐車場
高知市○○町 ××番地×
無職
M
三二歳
被疑者は、上記日時場所において駐車中の普通乗用自動車(××号)の幌を切り裂いて車両内から、上記被害者所有にかかる下記金品を窃取したものである。
現金 三〇〇円位
小遣い銭として費消。
被疑者が平成九年一二月七日に、高知市○○町××番××号所在の○○店へ、他で窃取したCDとあわせて一部を売却処分しており未発見。
CD
一〇枚位
一万円
11
平成九年 一二月二〇日 午前三時頃
高知市○○ ××番地× ○○駐車場
高知市○○ ××番地× ○○××号
会社員
N
二〇歳
被疑者は、上記日時場所において駐車中の軽四輪貨物自動車(××号)の後部ドア施錠を破壊してドアを開け、車両内から上記被害者所有にかかる下記物品を窃取したものである。
CD
八枚位
八〇〇〇円
被疑者が、友人のKに他で窃取したCDとあわせてCDの売却処分を依頼し、右Kが平成九年一二月二〇日に高知市○町×丁目×番××号○○ビル一階所在の○○店へ売却処分しており未発見。
12
平成九年 一二月二〇日 午前三時 三〇分頃
高知市○○ ××番地× ○○駐車場
高知市○○ ××番地× ○○××号室
理学療法士
O
二三歳
被疑者は、上記日時場所において駐車中の軽四輪貨物自動車(××号)の後部ドア施錠を破壊してドアを開け、車両内から上記被害者所有にかかる下記物品を窃取したものである。
CD
六枚位
九〇〇〇円
被疑者が、友人のKに他で窃取したCDとあわせてCDの売却処分を依頼し、右Kが平成九年一二月二〇日に高知市○町×丁目×番××号○○ビル一階所在の○○店へ売却処分しており未発見。
13
平成九年 一二月二三日 午前一時 三〇分頃
高知市○○ ×丁目××番 ××号 ○○駐車場
高知市○○×丁目 ××番××号 ○○××号室
トラック運転手
P
二五歳
被疑者は、上記日時場所において駐車中の軽四輪乗用自動車(××号)の後部ドア施錠を破壊してドアを開け、車両内から上記被害者所有にかかる下記物品を窃取したものである。
CD
一〇枚位
一万円
被疑者が平成九年一二月二三日に、高知市○町×丁目××番××号○○一階所在の○○店へ一部を売却処分しようとしたが同店店長に、「警察が探している」旨告知され、処分せずに逃走し、その後友人Qに依頼して右Qが同日、高知市○○町××番××号所在の○○店へ売却処分しており未発見。
又、一部のCDについては住居地南側の○○川に投棄しており未発見。
14
平成九年 一二月二三日 午前三時頃
高知市○○町 ×番××号 ○○方 西側空地
高知市○○町 ××番×号
無職
R
二四歳
被疑者は,上記日時場所において駐車中の軽四輸乗用自動車(××号)の後部ドア施錠を破壊してドアを開け、車両内から上記被害者所有にかかる下記物品を窃取したものである。
CD
五〇枚位
五万円
CDの一部を他で窃取したCDとあわせて、被疑者が平成九年一二月二三日に高知市〇町×丁目××番××号○○一階所在の○○店へ売却処分しようとしたが、同店店長に「警察が探している」旨告知され、処分せずに逃走し、その後同日友人Qに依頼して右Qが高知市○○町××番××号所在の○○店へ売却処分しており、処分している分は未登見。
又、CD四枚については、被疑者の友人Qが被疑者から預かっており、同人から任意提出を受け被害者に確認済。他のCDについては住居地南側の○○川に投棄しており未発見。
シューズ入れ及びゴルフシューズ、カゴは、被疑者の自供により高知市○○町××番××号○○自転車置場で発見し、被害者に還付。
他物品は投棄未発見。
財布
一個
二万円
運転免許証
一通
シューズ入れ
一個
三〇〇〇円
ゴルフシューズ
一足
一万円
カゴ
二個
二〇〇円
〔参考3〕 抗告審(高松高 平10(く)3号 平10.3.4決定)
主文
本件抗告を棄却する。
理由
本件抗告の趣意は、少年作成の抗告申立書に記載のとおりであるから、これを引用する。論旨は、少年を少年院送致とした原決定の処分は、少年に対し社会内処遇を選択しなかった点で重すぎ、著しく不当であるというのである。
そこで、少年保護事件記録及び少年調査記録を総合して検討するに、本件非行は、少年が、平成9年10月3日から同年12月23日までの間、16回にわたり、駐車中の自動車内から、現金合計約5300円及びCD等の物品約188点(時価合計約30万3700円相当)を窃取したという事犯であるが、少年は、平成7年3月に希望校の高校受験に失敗し、定時制の高校に入学したものの、嫌いな教師の授業に出ないなどして怠学したため同年夏頃から休学し、両親から追い出されるようにして家を出て友人方に同居させてもらうようになり、平成8年3月ころ、いったんは兄に迎えに来てもらって家に戻り、前記定時制高校に復学したが、同様に嫌いな教師の授業に出ず、結局同年夏には退学し、一方、少年は、同年5月ころから鳶職として働くようになったが、実父母から汚れる仕事はするななどと言われたとしてこれも同年8月ころにやめてしまい、再び家を出て友人方を転々とし、平成9年8月ころからは、生活費に窮して車上狙いの窃盗を繰り返すようになって、本件非行に至ったものであり、本件非行は、少年が、単独で、多数回にわたり、幌付きの自動車の幌の部分をカッターナイフで切り裂き、あるいはハッチバック式ドアの鍵をドライバーでこじ開けるなどして、自動車内の現金や主として換金するためにCD等の物品を盗んだというものであって、かなり悪質な犯行であり、これまで少年にはさしたる非行はないものの、その非行性はかなり進んでいるといわざるを得ない。一方、少年は、前記のような経過で両親との折り合いが悪く、現在では両親を敵視するような言動すら見せており、両親の監護下での更生を期待することはできない状況にある。少年は、高松市内で生活している実兄に就職先を世話してもらい住み込みで働きたいと述べるが、その確実なあてがあるわけではなく、仮にこれが可能であったとしても、前記のような少年の問題性からすると、そのような放任的な環境下での少年の更生に期待することはできない。そうすると、少年に対しては、規範意識を身につけさせるとともに、家族との折り合いをつけ、あるいは独立して生活できるだけの生活訓練を施すために、相当長期にわたる施設収容の必要があることは否定できず、そのような見地に立って、少年を中等少年院に送致すべきであるとした原決定の判断が著しく不当であるとはいえない。論旨は理由がない。
よって、少年法33条1項、少年審判規則50条により、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 田中明生 裁判官 三谷忠利 山本恵三)